サプライチェーン・トレーサビリティとは

製品がどこで生産され、どのような経路で届けられたのか——この「モノの流れ」を追跡・証明できる仕組みがサプライチェーン・トレーサビリティです。

近年、以下のような理由からトレーサビリティの重要性が高まっています:

  • 食品安全: 産地偽装の防止、リコール時の迅速な対応
  • サステナビリティ: 環境に配慮した原材料の証明
  • コンプライアンス: 規制対応や認証の証明
  • ブランド保護: 偽造品・模倣品の排除

サプライチェーンの追跡イメージ

ブロックチェーンを使う理由

従来のトレーサビリティシステムでは、各企業が個別にデータを管理していたため、企業間でのデータ連携や改ざん防止に課題がありました。

ブロックチェーンを活用することで:

課題 ブロックチェーンによる解決
データの改ざん 一度記録したデータは変更不可能
企業間の信頼 第三者を介さず、誰でも検証可能
システムの分断 共通の台帳で情報を共有

Tracking Protocol v1 の特長

アキュムレーターによる効率化

大量のアイテムを追跡する場合、すべてのIDをブロックチェーンに記録するとデータサイズが膨大になります。

Tracking Protocol v1では、アキュムレーターという暗号技術を使用して、この問題を解決しています。

アキュムレーターによるデータ圧縮

アキュムレーターの特徴:

  • 固定サイズ: 100個でも10,000個でも、データサイズは一定
  • 検証可能: 特定のアイテムが含まれているかを証明できる
  • 追加・削除: アイテムの追加や削除が可能

RSAアキュムレーター

本プロトコルではRSAアキュムレーターを採用しています。これは以下の理由によります:

  1. アイテム数に関係なくサイズが一定
  2. アイテムの順番を考慮する必要がない
  3. 包含証明・非包含証明の両方が可能

ユースケース:カカオ豆の追跡

具体的な例として、カカオ豆の流通追跡を見てみましょう。

ユースケース:カカオ豆の流通追跡

シナリオ

  1. Ivan Farm(カカオ農家)がカカオ豆 A, B, C を出荷
  2. Dave Trade(輸出業者)が受け取り、各加工業者へ配送
  3. 加工業者 A社、B社、C社 がそれぞれ受け取り

ブロックチェーンへの記録

各ステップでトランザクションが発行され、アキュムレーター値が記録されます:

ステップ 内容 記録されるアキュムレーター
1 Ivan → Dave Acc(A, B, C)
2 Dave → A社, B社(Cは保留) Acc(A), Acc(B), Acc(C)
3 Dave → C社 Acc(C)

トレース(追跡)

後から「アイテムAはどこから来たのか?」を確認したい場合:

  1. アイテムAのIDを元にトランザクションを検索
  2. トランザクションチェーンをたどる
  3. 各アキュムレーターを検証し、経路を証明

これにより、誰でもアイテムの流通経路を検証可能な形で確認できます。


技術詳細

以下は開発者向けの技術詳細です。

トラッキングトランザクション

トラッキングトランザクションは、通常のトランザクションに加えて、輸送情報を記録するトラッキングペイロードを含みます。

OP_RETURN < Tracking Payload >

ペイロード構造

フィールド サイズ 内容
マーカー 2バイト 0x5450(”TP” = Tracking Protocol)
バージョン 1バイト 0x01
ペイロードサイズ CompactSize ペイロードのサイズ
ペイロード 可変 アキュムレーター値

トレースルール

輸送元の決定

  • 新規出荷: トランザクションの先頭インプットのアドレス
  • 中継: トラッキングペイロードが適用されるUTXOのアドレス

輸送先の決定

  • トラッキングペイロードの直後のUTXOが輸送先

消費

  • 輸送先が指定されないアイテムは「消費済み」として扱われる

RSAアキュムレーターの動作

セットアップ

  1. 大きな素数 p, q を選択し、N = p × q を計算
  2. RSA群のジェネレーター g を選択
  3. 初期アキュムレーター: A₀ = g

要素の追加

要素 x を追加する場合:

x' = Hp(x)  // 素数を出力するハッシュ関数
A₁ = g^x' mod N

メンバーシップ証明

A₁ に x が含まれることを証明:

  • witness として A₀ を提供
  • 検証者は A₀^x’ = A₁ を確認

非メンバーシップ証明

ベズー係数を用いて、要素が含まれていないことを証明可能です。


まとめ

Tracking Protocol v1は、ブロックチェーンの特性を活かしながら、アキュムレーター技術によってデータ効率を最適化した、実用的なトレーサビリティソリューションです。

  • 透明性: 誰でも検証可能
  • 効率性: アキュムレーターによるデータ圧縮
  • 信頼性: 改ざん不可能な記録

より高度な秘匿性が必要な場合は、Tracking Protocol v2をご覧ください。